2009年2月22日日曜日
ブックレビュー:市民のための地方自治入門
今日は市民のための地方自治入門[改訂版]
行政主導型から住民参加型へ 佐藤竺監修 今川晃・馬場健 編 実務教育出版2005年4月発行
・ この本は財政を知るうちに地方自治全般について興味を持った方にお勧め
・ 内容としては基礎的な知識があったほうがよいところもあるが、特に難しくはありません。
・ 本の目的として、「『行政資源が限られるなかで、地方自治体が市民の間の利害対立の中心に位置し、優先順位を定めて調整の責任を果たさなければならない』という困難な状況下、自治体を運営していくためには、住民自らが主人公として住民主体の行政や政治の展開をする必要がある。
そのような中で一人ひとりが主体的にまちづくりを進めるための知識面での一助となる」ことを目指している。
としています。
大まかな内容は・・・・
・明治以来の地方自治制度の歩み
・地方自治の構成要素としての住民・組織・財政
・地方自治の中での政策過程・情報共有・行政評価の一般論
・近年の話題として合併・住民参画・NPM・今後の自治体職員のあり方
・その他イギリス・アメリカの地方自治の事例
を取り上げています。
全体的に丁寧に説明されており、特に地方自治の歴史は詳しく説明されています。
明治維新当時の中央集権の考え方 ~たとえば知事は国からの役人だった!など~
から地方分権へと理念は進みながらも、その都度ゆり戻しと後退を重ねてきた様子がわかりますので、地方分権に興味のある人のための基礎知識としても役立ちます。
論調も特定の考え方に基づくものではないのでおすすめです。
連載:財政白書の未来 第4回
本日は市民による財政分析の未来ということですが、やっぱり長くなってしまったので2回に分けます。
第四回 市民による財政分析の未来 その1
~越えるべきハードル~
○各論の分析を行ううえでのハードル
前回・前々回と財政白書が各論指向、計画指向となっていくことを説明しました。
今後、市民と行政がともに共通のデータに基づき分析して議論するようになると書きましたが、実際には市民が個別の課題について分析を行うには、現状では相当なハードルが控えています。
総論としての財政白書の作成においては、現在では総務省によるデータの公開や市役所によるデータの公開などがあり、全般的に基本的な財政データは集めやすい状況になっています。また市民による財政分析に関する本も市販されており、大和田先生によれば「時間さえあれば誰でもできる」という状況にまでなってきています。
このような状況が、市民による財政白書作りが盛んになっているひとつの要因であると思います。
それでも財政分析を財政白書の形にまでまとめるには、分析そのものと同じぐらいのマンパワーとリーダーシップ、動機付けが必要となります。
市民が各論の分析を行ううえでのインセンティブとハードルを下にまとめてみます。
インセンティブ
・興味の高い話題に取り組むことができる
・身近な話題であれば、実感に基づいた分析ができる
(実感に流されてしまうというリスクもある)
ハードル
・財政データのみならず、行政データ・統計データを集めなければならない
~ 行政内部の資料は開示されていないことが多いですし、情報公開をするにしても手続きは慣れない人にはわからないことが多く、勤め人は請求する時間そのものがない
・それぞれの市によって各論となるべきものが違う。したがって分析の手法に一定の方法がない
~ そのため分析の方法を考えるところからのスタートとなり時間がかかる。
一般的に、市民(特に会社に勤めにいっている人)にはあまり時間がなく、情報収集力も行政に比べれば劣り、業務ではなく内発的な興味と動機付けによって動いているという面があり、各論にかかわる分析を行っていくうえで、行政とのハンデは大きいものがあります。
このような状況に対し単に市民側の”がんばり”だけに期待するにはおのずと限界があるといえるでしょう。
行政としてもよりよい市政運営を目指すのであれば、そのハンデに安住するのではなくそれを埋めるようにするべきでしょう。
○ハードルを越える方向性
最初に示したハードルについては、ともかくも行政として情報を開かれたものとしていくことが必要です。法的な手続きを経なければ情報公開がなされないというのではなく、基本的な行政情報については誰でもアクセスできる形、なおかつアクセス及び分析しやすい形で公開すべきです。
昼間は市役所にいけない人、市役所から遠かったり移動が困難な人がいるので、ホームページ上のたどり着きやすいところに、できれば表計算ソフトで読める形式でアップ望ましい。
急に全部を電子化というのも大変ですので、まずは事務報告書や統計書に記載されている情報からアップしていくのがよいでしょう。
もう一方のハードルを越える方向性としては、分析単位の細分化(モジュール化)と細分化したもののネットワーク化があげられます。これについては次回説明しますが、これにより、より力をかけずに、よりよい分析ができるようになる環境ができてくるものと期待をこめて、予測します。
実際にこれができるようになる前提は、先に示した情報収集上のハードルが多くの市町村である程度以上低くなっていること。財政白書作りが広まり、相当数の市町村で各論の分析を行おうとする動きが出てくること。であり、そのようになるためには、ある程度の時間を要するものと考えられます。
今日はここまで、次回は、モジュール化とネットワーク化について詳しく述べるとともに、これを支える情報インフラ面について、お話をしていきたいと思います。
2009年2月21日土曜日
連載:財政白書の未来 第3回
財政白書の未来
第3回 財政白書の未来形
~ 財政白書は計画指向へ~
前回は白書の内容が総論から各論に重心を移していくというお話をしましたが、各論の分析を進めていくと、市民側の財政白書は分析から提言へ、行政側の財政白書は市民の参画による施策の策定を見据えるものへと進んでいくものと考えられます。
ところで、近年は施策の策定の段階から市民参画を行う市が多くなってきました。総合計画をはじめとして個別の○○プランというようなものの策定においても、市民を委員とするなど、計画段階から市民の声をいれようという取り組みが広がっています。
このような取り組みと各論を分析した財政白書作りが合わさることで、財政的なバックグランドについて共通のベースを持つ市民と行政が議論をし、財政的な裏づけを持った計画となることが期待されます。
財政的な裏づけのない計画はWishリストに過ぎません。各市町村で多くのプランが作られてきましたが、その中でどれぐらい財政的な裏づけを考慮していたでしょう。これまではプランを作っても
「いろいろとやりたいことはわかりました。計画にも載せました。でもお金がないからできませんごめんなさい。」で済ませているものも多かったのではないでしょうか。
やる可能性のあることを全て掲げておいて、将来なんでもできるようにしておこうという意図が場合によってはあるのかもしれません。
逆に財政の裏づけがあると、それは単なるWishリストからやるべき責任を持った市民に対する約束となります。行政にとっても市民にとってもこれまでのプランとは比較にならない重いものとなります。
もちろん歳入をはじめとして将来を見通しにくいものもあります。しかし計画と変わった場合に単に「お金がないので、ごめんなさい」ではなく「こういう理由で変化したので、このようにします」という説明がなされる方があるべき姿ではないでしょうか。
このような方向で進んでいくと、分析や検討が施策単位で行われることになり、財政白書という名前はふさわしくなくなっていくのかもしれません。今後そのようなものに何らか他の名称をつけていくことも考えるべきでしょう。
しかしながら、総論の分析である財政白書も個別の施策策定のための分析も
「市民と行政が」
「共通のデータに基づき」
「財政的な裏づけを持ちながら」
「議論を行うための基盤」
であることには変わりがありません。
今後は財政白書は、各論指向・計画指向を強めるなかで
”行政と市民が協働で施策を評価・計画するプラットフォームになる。”
と考えられます。 下にそのイメージを示してみました。
また参考までに、財政白書総論編からの進化の過程を次にまとめてみました。
現在は財政白書の総論作りがいろいろな市町村に広まっている段階ですが、既に(特に市民により)財政白書の発行が行われている市では、各論化が進んでいくでしょう。そしてそれを受けるような形で過去および現在の分析評価から、将来の計画作りへと広がっていくと考えられます。
当面は総論づくりの広がりと各論への深化が進むと考えられますが、次回以降述べることにより、ある程度総論づくりが広がった段階で各論の深化が加速度的に広さと深さをもってくると考えています。
とはいえ、このようなことが実現していくには実際には相当の時間を要するものと思われます。
これは将来のひとつの理想形ですが、実現にはいくつものハードルがあります。
次回以降そのハードルのうち 市民による財政分析に係わる課題、コミュニケーションに係わる課題につき、そのハードルを乗り越える動きについての展望を述べていきます。
次回は第4回「市民による財政分析の未来」をお送りします。
このペースでいくと何回かにわけることになるかな。今回も長かったし。
2009年2月20日金曜日
連載:財政白書の未来 第2回
(前回はこちら) (目次はこちら)長くなったので2回に分けます。
財政白書の未来
第2回 財政白書の未来形(その1)
~ 財政白書は各論指向へ~
○なぜ各論指向になるのか
今後財政白書は市民が作るものも、行政が作るものも各論指向が進むものと考えられます。
まず、市民が作る財政白書についていえば、総論編のみを継続して出していくのは実際のところ難しく、各論に移っていかざるを得ないという面があります。
その理由としては
- 初回は財政資料の分析そのものが新しいものの発見につながる部分があるが、二回目以降は新しい発見はあまりなく、仮にあっても初回ほどではない。
- 第二回目以降はデータの更新のみであるとはいえ、相当なマンパワーを必要とするが、発表しても初回ほどの話題性およびインパクトはなく、作るモチベーションが下がりがち。
- 市民が財政白書を作るきっかけとして、特定の事業の実施又は廃止に疑問を感じた市民が動き出した、というようなこともあり、そもそも興味は各論にある。
があげられます。市民としては財政全体の認識の仕方というよりも、個別の議論のほうが議論しやすく、実際に市民が既に作っている財政白書では各論が充実しているものもあります。
一方行政の作っている財政白書は業務として作れるということもあり、各論編を作る動機付けは市民の場合ほど強くはないと考えられます。とはいえ今後は以下の理由により、各論化が進んでいくものと想定されます。
財政白書は市民に財政状況を伝え、理解してもらうことがことを意図していますが、そもそも市民に財政状況を伝え、理解してもらおうとする理由はなんでしょうか?
1:やろうとする施策又はやめようとする施策、市民に負担を求めることに関して、市民の理解を求めること。
実際には行政としては財政白書の中ではっきりはいいにくい面があり、これを主目的とする行政の財政白書はまだないのではないかと思います。
2:市の財政状況の状況を訴えることで、市民に気づきを与え何らかのアクションをしてもらうこと、具体的には市政への参画を促すこと
例えば日野市の場合は、「わかりやすい財政資料を作る」→「市民参画による健全財政を検討する」ことが総合計画に位置づけられています。他の市における位置づけは未調査ですが、おそらくこちらの目的が主であると考えられます。
仮に財政白書の発行により2番目の目的達成に一定の効果が現れたとすると、必然的に「財政状況を十分に理解した市民の参画の下」「市の計画、施策や事業について議論を交わす」ということが起こってくると考えられます。
そのような段階になれば、そこで行われる議論はそれぞれの計画・施策・事業といった各論になることは自然であるといえます。「財政状況を十分に理解した市民の参画の下」に行われる議論を有効にするには、各論に関する財政分析に基づく議論でなければなりません。その議論のベースとして各論の財政白書が必要となってくるでしょう。
このように、市民側、行政側ともに各論化の流れであろうと思われますが、当面は市民の財政白書が先行する形で各論化が進んでいくものと思われます。
次回は、上記のような各論の分析とともに起こると予想される計画指向についてお話します。
第三回「財政白書の未来形 ~ 財政白書は計画指向へ~ 」
2009年2月19日木曜日
公立病院 自治体直営転換 半数以上が検討
”関東1都6県 公立病院 自治体直営転換 半数以上が検討”
「関東一都六県の公立病院の半数以上が自治体による直営方式の見直しを検討していることが、東京新聞のアンケートで分かった。公立病院の大部分は経営難に直面しており、総務省は来月までに改革プランの提出を求めている。具体的には非公務員型の独立行政法人化や民間病院への運営委託が多かったが、プラン策定の効果については、効率化に偏重する国の姿勢に反発する意見が目立った。」
記事によると、関東の121の病院にアンケート調査をした結果、
直営方式の転換を検討している:49病院
非公務員型の地方独立行政法人:32
民間医療法人への運営委託 :11
公務員型の地方独立行政法人 :5
民間譲渡 :3
他病院との再編や統合を検討している :24
とのこと。
ちなみに自由記述では「医師の確保が不透明で先行きが読めない」「自治体レベルで解決できる問題ではなく、効果が期待できない」といった意見が目立った。
日野市も市立病院があり、アンケートに答えたかどうかわかりませんが、こちらも今後の動きが注目されるところです。
連載:財政白書の未来 第1回
今回は「財政白書の未来」の第1回を連載します。
財政白書の未来
第1回 財政白書は次のステージへ
市の財政状況を表す財政情報は、現在のように財政白書が出る前にも広報その他で公表が行われてきました。このような財政情報の公表と財政白書の違いはそもそもなんでしょう。
財政白書の未来を論じる前に、まずは財政白書の特徴を私なりに整理してみました。
○財政白書の特徴
端的にいえば、これまでの財政情報の公表が総務省(旧自治省)が定めた仕事として、出さなければならない情報を発信することが主眼であったのに対し、財政白書は発信したものが市民一般に伝わる・理解してもらうという視点に立っているというのが違いだと思います。
市民一般に伝わる・理解できるという視点に立つと表現される内容に次のような特徴が生じます。
その1:データを経年的に示す
広報などによる財政状況の公表では一般的にその年分(又はこれに加えてその前年分)の情報しかないのが普通でした。しかし、財政白書ではここ10~20年程度の推移を掲載するケースが多くなっています。なぜならば、現在の市町村の財政状況はバブル以前からの経済状況と国の政策に翻弄されてきたという面が強く、現在の財政状況を市民に理解できるようにするためにはこれまでの経緯の説明を抜かすことはできないからです。
その2:財政状況の評価とその要素が分析されていること
財政情報を並べるだけではなく、それが意味するところ、それがなぜ生じたかが分析されていること。そこにどれだけ評価や書き手の意見を入れるかは白書により違いが出ますが、一般に市民が作成した白書のほうが、評価や意見が入ることが多くなっています。
その3:財源や負担の議論が伴っていること
絵やグラフで見やすくしている予算説明書を出している自治体もありますが、単に何をやってどれぐらい使っているかという業務報告を記載は財政白書とはいえないかと思います。
その4:ビジュアルになっていること
表よりもグラフが用いられることが多く、またイラストなどを入れてやわらかい感じを出している白書も多くなっています。しかしこれは財政情報をビジュアルにすれば財政白書になるというものではなく、市民に理解してもらおうとする結果として生じるものと考えます。逆にビジュアルでもその1~3の特徴がないものは財政白書とはいえないでしょう。
○変化が必要な財政白書
財政白書作成の目的として大きいのは、まず市民一人ひとりが財政に関心を持ち、市政への参画を促すことを通じて市民が意見と知恵を反映していくことを通じて、健全財政を推進することと考えられます。(*2)
このような取り組みは継続性が求められるものなので、特に行政の財政白書は今後毎年継続して発行されるものと思います。
一方市民が発行する財政白書は、「市民が市民の手で財政白書を作った」ということそのものに価値が見出される部分があり、同じようなものを二回目以降発行するインセンティブ(および話題性)はそれほど大きくないと考えられます。
現在財政白書作りは多摩地域で盛んですが、全国的にはこれからという感じですので、まずは地域的に広がっていくと思います。しかし多摩地域についていえば、財政白書を作ることそのものについては既に一巡しつつあると考えられます。
それでは今後財政白書はどのような展開を見せていくのか。次回以降考察を進めていきましょう。
次回は第二回として「財政白書の未来形」をお送りします。
*1:日野市中央公民館「財政講座」資料より
*2:日野いいプラン2010(第四次日野市基本構想・基本計画)から、他市でも同様の目的を持つものと思います。
2009年2月18日水曜日
多摩市 財政白書追記
紙ベースでは
「平成19年度多摩市の財政白書 ~わかりやすい多摩市の財政状況~」 20年11月に発行。
市役所で販売400円だとか。かなり厚い資料でほぼ印刷代の実費相当と思われます。
(財政を考える会メンバー提供情報)
さらに『多摩市の財政白書』 決算についての解説書も公表されているようです。