第六話 不景気がやってきた。
三匹の王子はそれぞれの町に散っていきました。海辺の町には猫太郎、川辺の町には猫次郎、山辺の町には猫三郎。
それぞれの町の猫たちはよく働き、荒地は畑に変わり、道路は作られ、猫たちは繁殖し、国は栄えていきました。親猫たちは猫の手も借りたいほど忙しく、父猫も母猫も働くようになりました。それぞれの町で子猫を預かる施設も作られました。老猫が増え、関連する施設もできました。
3人の王子は次から次へと出てくる猫たちのニーズにこたえていきました。町を治めるお金がよりかかるようになりましたが、国が順調に栄えていき、猫吉からもその分補助がもらえたので、なんとかやりくりができました。
新しいニーズが生じるたびに猫吉からは追加のマニュアルが送られ、マニュアルはますます分厚くなっていきました。
成長を続けてきた猫の国ですが、荒地があらかた畑になったころから、その成長は鈍ってきました。 今まで通りの成長を見込んでお金を借りていた人が返せなくなったりして、世の中の金回りが悪くなってきました。いわゆる不景気という状態です。
そんなある日猫の国の王、猫吉は息子たちを集めていいました。
猫吉「わが国の経済は、これまでにない状況になっている。国として経済の建て直しを図らなければならない。」
猫太郎「経済の建て直しといっても、われわれにいったい何ができるでしょう。」
「君はケインズをしらないな。不景気は需要の不足から起こるのじゃ。こういうときは国が需要を作り出さなければならぬ。道路をもっと立派なものにするのじゃ。猫たちが遊ぶ施設を作るのじゃ。」
猫次郎「働かずに遊んだら生産が減るのではないでしょうか。」
猫太郎「必要な道路はもうできています。」
「今は生産は足りている。とにかくお金を使わせることが大事じゃ。道路や施設を作ればお金が建設会社にまわる。建設会社は資材を作る業者にお金を払う。給料をもらった人は消費に回すというわけじゃ。遊ぶところができれば、そこでお金を使うだろう。」
猫三郎「建設にはお金がかかります。補助をいただかなければ。。。」「不景気じゃからな。国の財政も大変なのじゃよ。しかしじゃ、弟の銀行が貸してくれるから心配するな。」
「でも貸したものは返さなければだめでしょう?」
「そこでじゃ。返済に必要な費用は『町を治めるのに最低限必要なお金』に算入してあげよう。」
「それならばよいでしょう。」 「それならばよいでしょう」
といって、猫次郎と猫三郎は町へ帰っていきました。猫太郎も釈然としないながらも、帰っていきました。
(解説)
経済成長と停滞の状況はあくまで猫の国の物語とご理解ください。実際の国の経済はこんなに簡単にまとめられるものではありませんので。
さて、財政の役割としては3つあるといわれています。(アメリカの経済学者マスグレイブによる)
ひとつは、道路などの公共財の供給
もうひとつは、所得の再分配(豊かな人からそうでない人への所得の移転)
そして3つめは、経済の安定化(インフレを抑えたり、需要を喚起したりすること)です。
一般的に所得の再分配や経済の安定化は、一自治体がやっても効果がないので国が果たすべき役割とされています。日本では国が地方の自治体を動員して公共投資を促進するなどの景気対策を行ってきました。
バブル崩壊後は国が直接補助するのではなく、「借金をしてよい」というお墨付きを与えることで、自治体がお金を借りやすくして、土木事業などに投資を行わせるように誘導してきました。将来借金の返済は国が面倒を見るということで、それぞれの自治体も借金をして公共投資を盛んに行いました。
その結果地方自治体の借金は平成4年の61兆円からその10年後の平成14年度には134兆円にまで急増したのです。
(ビジュアル版地方財政白書より)
財政の役割として一つ目に挙げた”公共財の供給”については、その公共財の供給による効果と費用が問われます。
一方、不景気は需要が供給に追いつかないことにより起こるものとすると、”経済の安定化”という視点に立つと不景気時にはとにかく需要を増やすことが重要ということになります。 そのために経済の安定化という名目での公共投資はその質が問われにくくなってしまう恐れがあると思います。
公共投資はひとつの政策決定であり、それはどのような形であれ特定の人に対する利益を伴います。今は100年に一度の危機などといわれているようですが、経済対策がそれを隠れ蓑にした利益誘導となっていないか。冷静に見ていく必要があるでしょう。