毎日新聞 2009年8月4日 地方版より
総選挙特集の中の記事
「借金の原因はお前だ」「何であんな大きいものを造ったんだ」--。黒石市ぐみの木3のスポーツを主体とした多目的施設「スポカルイン黒石」館長の吉田安宏さん(65)は、約10年前に市関係者から言われたことを思い出す。
「みんな承知の上でやったのに」と、変わり身の早さにショックを受けた。
スポカルインは5000人規模を収容するアリーナを擁し、96年4月に開館。
旧自治省(現総務省)の地域総合整備事業債(地総債)を活用し、総事業費38億9000万円をかけた。市はほかに、地総債を使って「津軽伝承工芸館」(総事業費約32億円、99年完成)を建設。
スポカルインは全体の75%まで起債が認められ、うち30~55%が原則交付税措置がなされ、伝承工芸舘は90%まで起債が可能だった。市は両施設とも指定管理者制度を取り入れ、管理運営費がともに単年度で約5500万円で、昨年度は約400万円の黒字となった。
スポカルインの建設当時、黒石市教委にいて計画に携わった吉田さんは「『市は少ない持ち出しだけで建物を建てられる』という甘いわなが仕掛けられていた」と振り返る。 (中略)
国の政策に踊らされ、苦い経験をした黒石市。(中略)鳴海市長は「財政的な苦しみを抱えていながら国が『(起債を)許可します』というと、自治体はぱっと飛びつく。この構造を変えないといけない」
この記事で気になったのが、地方総合整備事業債。ちょっと聞いたことがなかったので調べてみる。
地方財政情報館財政用語小事典(http://www.zaiseijoho.com/deco/deco_t-14.html)によると、
(おそらくは景気対策のために)大型の単独事業に対して許可された地方債で、その元利償還金に対して交付税措置されるのが特徴。まずは建設した年度の事業費の一定割合(例えば15%)が基準財政需要額に加算され、後年の元利償還金に対しても財政力に応じて30%~50%が基準財政需要額に加算されるとのこと。
通常記事であるようなスポーツ施設や文化施設を単独事業で作った場合、経常収支的にみると
①作った年はプラスマイナス0(臨時的な歳出なので)
②それ以降の年は維持管理費及び公債費の分、悪化の方向 となります。
(基準財政需要額は±0なので、よくなることはありません。)
となりますが、この制度を使うと、
①作った年は±0又はプラス(!)
(交付税措置が普通交付税の場合はプラス。特別交付税の場合は±0)
②それ以降の年は悪化の方向だが、交付税が増えるので通常よりは影響が少ない。
ということになります。
よくよく考えれば、例え「お金を借りていいよ」といわれても返すのは自分自身。交付税措置をしてくれるといっても、そもそもの交付税が年々減らされる方向にあるので、思ったほどは措置されないというのが実態ではないでしょうか。
その上に維持管理費もかかることを考えると、まさに「甘いわな」といえるでしょう。
日野市がこの制度を使ったかどうかは不明ですが、この制度を使うメリットがそもそもない(交付税措置されても不交付団体なので入るお金はぜんぜん増えない)ので使っていないのではと推測しています。