2009年5月10日日曜日

ブックレビュー 税制改正五十年

税制改正五十年 ~回顧と展望 水野勝 著 大蔵財務協会 平成18年3月発行

 図書館で借りてきました。
 大蔵省の主税局で長年税制に関わってきた筆者が昭和30年代から平成15年ぐらいまでの税制改正について、自らがかかわったものを中心に紹介しています。読み物としても面白いし、意外なことがいろいろとあった。
その1
 所得税は昭和40年代まで毎年減税されてきた。所得税は超過累進課税で所得が増えるほど税率が高くなるため、高度成長時代にはどんどん税率が高くなっていったため、「減税を」という声が強かったらしい。ところが昭和50年代になると財源不足に。それならば所得税を上げればよいじゃないかと素人考えには思うのだが、減税圧力は歴史的に強くて増税は難しいという判断の中で、消費に対する課税への期待が強まっていったということのようです。
その2
 現在給与所得に対する所得税の負担割合は4%ぐらいで、国際的に見てもかなり低い水準らしいです。(逆のことを書いてある本もありますが。) アングロサクソン的小さな政府はもうだめだという人は多いのですが、税率をあげようという人はなかなかおりません。政治的に難しいのでしょう。本書の中の「税制は端的にいえば政治である」との一節に重みを感じます。
その3
 消費税の前身ともいえる売上税導入を考えていた時期にちょうど衆参同時選挙があり、中曽根元首相の選挙戦略として、「まず減税の話をして選挙、その後財源論で間接税の導入。」と考えていたらしい。野党の「大型間接税をやるつもりだろう」という声に「大型間接税はやらない」というキャンペーンを打ったことから、明らかな「公約違反」になってしまい、消費税はその誕生から後ろ暗い歴史を追ってしまうことになったこと。
その4
 意外なのは、消費税導入後の総選挙で自民党が負け、日本新党を中心とする連立政権ができましたが、その日本新党が提案したのが国民福祉税という7%の間接税だったということ。ニュースになった記憶はないのですが、意外でした。
 その後の橋本内閣のあたりから大蔵省(税制調査会)主導というよりは政治主導で、税制が決まるようになったと書かれています。
その5
 平成10年の特別減税あたりから、特別減税・恒久減税を行った結果、税収の歳入に占める割合が50%台になってしまい、残りは赤字公債を発行でまかなうという状況に対して「税としての機能を喪失している」「後世代への負担の先送り」と厳しく評価しています。今年度の税収よりも借金が多いという状況をみたらどう思うでしょうか。
 「100年に一度」云々いろいろ言われていますが、借金はいつかは必ず返すもの、「税としての機能を喪失している」という言葉は重く受け止めなければなりません。

 ところで所得税の負担水準は国際的にも非常に低いようですが、負担感が軽いわけではありません。
 本書のP695に気になる図がありました。平成15年度の平均的な給与所得者の収入は444万円。
 そのうち所得税は8万円弱で、負担率は2%を下回っているとのこと。
  一方社会保険料(健康保険や厚生年金など)は44.4万円と所得税の約5倍。一般のサラリーマンは所得税・住民税・保険と分けて考えるというよりも、給与-手取り=負担と考えがちなので、実際の税の負担よりも重く感じるのかなと思います。
 保険・年金については触れられていませんでしたが、これらを一体的に考えていくことが重要なのではないか。そしてそれは政治の役割ではないかと思うのですが。
もっとも税制が政治主導になったとたん財政悪化したことを思い起こすと、それがよいのか暗い気持ちになってしまいます。

あ、本日で100日連続更新達成しました。ふぅ。