2009年6月21日日曜日

ブックレビュー 地方分権と地方自治

地方分権と地方自治 佐々木信夫著 勁草書房 1999年発行
この本は筆者が研究してきた「地方分権と地方自治」についての成果を体系的にまとめたものとして、いろいろな角度から問題提起をし、改革指針を探った ものとのこと。(本書はしがきより)
地方分権一括法施行前の少し古い本ですが、内容は今でも通じる部分が多い。基本的には行政の立場で分権化の中で、政策を作る主体として自立する自治体としていかにあるべきかに重点が置かれているように思います。


特に面白いと思ったところを何点か。
1.機関委任事務について
 昨日のコラムで機関委任事務が法定受託事務になったことについて書きましたが、第3章の中で機関委任事務の問題点について、本来地方の代表であるべき市町村長が、国の地方機関としての役割を負わされ、なおかつ国の仕事なので、地方議会も異を唱えることができない状態になっていると問題点を指摘しています。
  ちなみにその機関委任事務が都道府県で8割(!)、市町村で4割もあったのだそうです。
 ・昨日のコラムでは「変化がよくわからない」と書きましたが、法定受託事務になることでこれからは市町村長の自前の仕事となることで5年、10年経つうちに自分の地域にとって必要な仕事は拡大し、そうでないものは縮小するという具合に、「権限行使のやり方しだいで自治体行政は大きく変わる」と評価しています。
 つまり、この改革を生かすかどうかはそれぞれの自治体に懸かっているというわけです。

2.自治体リストラ3つの側面
 リストラというと業務の効率化、スリム化をまず思い浮かべますが、それはリストラの中でも「事業体のリストラ」という一側面の過ぎず、その他「政策体としてのリストラ」(政策を考える能力の向上)、「政治体としてのリストラ」(住民自治の活性化、特に議会の改革)が必要と指摘しています。

3.官僚主義の表れ方
 アメリカの社会学者R・マートンが官僚制の問題として「あるべき官僚制像が職員に内面化されると期待とは逆の方向に過剰表出される」ことを指摘しています。つまり
 ①規律による原則を徹底 → 法規万能主義、手続きが細かく煩わしい
 ②公平無私を徹底 → 不親切で尊大横柄に
 ③明確な権限の原則 → たらいまわし、責任回避
 ④身分保障 → 仲間意識、特権意識
 最近では
 ⑤住民参画・民間委託 → 必要以上に丸投げ  を追加してもよいかもしれません。
 このような官僚主義の罠にはまらないよう、住民に対して開かれた自治体づくりに向けた改革が必要としています。
 官僚主義は民間企業にも当てはまる部分もあり、自らの問題として認識する必要がありそうです。

4.稟議制の理解の仕方
 稟議制(計画や決定が末端の職員によって起案された稟議書を関係者に順次回覧してその印を求め、さらに上位者に回送して最後に決裁者にいたる方式)があるため、誰が究極の責任の帰属者かわからないという問題が指摘されています。
 これに対して、この書では「上位者が印を押した時点で下位者の責任は消え、上位者の責任だけが残る」と考えるべきである。としている。「部長に代わってヒラが起案しているだけであって、ヒラがやりたいことを部長が追認しているというものではない。事件が起きたときに『俺は知らなかった』『俺ははんこを押しただけ』という言い訳は通用しない。」
 と厳しい。アカウンタビリティの明確化が求められる現代において稟議制が問題なのではなく、その理解の仕方が問題としている。

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