2009年6月20日土曜日

生活保護は国の仕事?

2月に中央公民館で財政講座(詳細はこちら)でお話をした後に、受講者から次のような質問が。
「生活保護は国の仕事と聞いていたのに、違うのかね。」
これに対して、国と地方でやっているようなお話をさせていただいたのですが、どうも納得は得られなかったようです。

ちょっと気になっていたので、調べてみました。
 結論から言うと「国の仕事」「市の仕事」と単純な結論ではないので、かえってわからなくなるのかもしれませんし、それが本当の姿なのだろうと思います。

1.制度の考え方として
 生活保護法の第一条は 「この法律は、日本国憲法第二十五条 に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い(後略)、・・・」とあり、国が一義的な責任を持つこととなっています。
 これでおしまい・・・・・だったら話が簡単なのですが、続きがあります。

2.実際の役割
 この法律に関して、国は
 「企画立案、基準の設定(どのような人にどれだけ保護を行うか)、実施要領(マニュアルですな)、監査」をすることになっており、
 市はその基準に基づいて保護を実施するということになっています。
 簡単にいうと、国が頭で市は手ということになるでしょうか。
 他のたとえを考えてみると・・・・
  生活保護=大阪城、国=秀吉、市=大工さん
  生活保護=野球、国=監督、市=選手     よいたとえかどうかわかりませんが。
 それでは、生活保護で何かあったときの責任の所在はどうなるかというと実際のところ「一概に言えない。」
 国はマニュアルを作りますが、個々のケースの判断はしないということなので、通常は窓口である市への風当たりが強くなることになります。(この項Wikipedia記事を参考に作成しました。)

3.財政的な面
 生活保護法の第70条に、費用は「市が支弁すること」とあり、同75条でその3/4を「国が負担する」こととなっています。
 ここだけを見ると、市が主体で国が支援しているようにも見えます。
 ところが、この「国が負担する」の意味合いは意外な重さを持つもののようです。
 この「国が負担する」お金は「国庫負担金」 と呼ばれ、地方財政法第10条に
 「地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務(生活保護は国の法律でやらなければならない)であつて、国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務(市にも利害関係があるものとされているようである)のうち、その円滑な運営を期するためには、なお、国が進んで経費を負担する必要がある次に掲げるもの(生活保護もその一つ)については国が、その経費の全部又は一部を負担する。」とあり、
「国が進んで経費を負担するべきもの」として主体性を持ってくると読めます。

ちなみに三位一体改革の中で「国が3/4負担」となっているものを「国が1/2」にするという議論があったようですが、
「地方自治体に裁量の余地が少ないものの補助割合を減らすのは単なる負担の押し付けであり、地方分権に寄与しない」ということで反対にあい、頓挫したようです。
まったくその通りだし、国が進んで経費を負担すべきものという考えにも反すると思われます。

4.結局生活保護ってだれの仕事なの?
 地方自治法により、生活保護は「法定受託事務」とされています。
 「法定受託事務」とは何かというと「国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの」として市が受託するものです。
 
他のものにたとえるならば、
 生活保護=自動車、国=トヨタ(日産でもGMでもよいのだが)、市=販売店
 どうもうまい例えが思いつかない。

 ちなみに、地方分権一括法が施行(2000年)される前は「機関委任事務」と呼ばれており、そのときは「国の事務の執行機関としての市」としてその事務を行うものとされていたようです。
 (ここらへん細かいことを知りたい方はこのリンクへ)
 法定受託事務になったことで、「国の事務ではなくあくまで市の事務」になったということが大きいようですが、市民としてその違いを体感できるような変化はまだ起こっていないように思います。
 ということでまとめると
 「国が本来果たすべき役割」
 かつ
 「市としての事務」
 ということになります。 かえってわからなくなったって?

5.結局・・・
 結局よくわからなくなってしまったのですが。
 このような状況に対し、国の事務と、都道府県の事務と、市町村の事務と明確に切り分けるべきではないか(財源+人間付で)という提案もされています。
 アメリカはどちらかというとその方向に近くなっています。
 ただ、実際にそれを行うためには国や都の出先を多くする必要があり、また縦割りがさらにひどくなる懸念もあり、本当にどのような事務のあり方にすべきかということは今後十分に議論すべきだろうと思います。
 また「責任の所在」が結局よくわからないという問題もあります。
 市は国のマニュアルのせいにし、中央官庁は「やり方がまずいんだ」と市のせいにすることで、よほど一方の非が明確でない限り、結局責任の所在がよくわからなくことがしばしば起こっているものと思われます。
 これについては「責任の所在」「財源」「権限」含め総合的に考える必要があるでしょう。

今日の用語
 「国庫負担金」「法定受託事務」 

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