2009年5月29日金曜日

ブックレビュー 国債の歴史

国債の歴史~金利に凝縮された過去と未来~ 富田俊基 東洋経済新報社
 図書館で借りてきました。
 イギリスの名誉革命のころから第二次世界大戦ごろまでの国債の歴史をについての本。目的としては
「国債の本質を明らかにし、各国国債の間の金利差が物語る過去を振り返って、わが国の未来に向かって投げかける光を見出そうとする」となっています。
 金融に関する知識があったほうがよいですが、近代~現代の歴史に興味があれば読み物としても面白く読めると思います。
 第二次大戦以後の国債の歴史もあれば非常によかったのですが、続編を希望。
 わが国の未来への示唆については、序章に集約されています。序章を読むだけでも勝ちあり。
 非常に読み応えのある、示唆するところが非常に深く広く、とてもここで書ききれるものではありませんが、へーと思ったことをいくつか。

○絶対主義より民主主義の方が資金調達力が高いということ。
 王様の一言でなんでもできる絶対主義の方が、議会の承認を得ないといけない民主主義よりもお金を多く集められるように思いますが、実は。王様の債務は特に代替わりしたときによく踏み倒されたのだとか。果ては「それは借金ではなく税金だ」と後から主張し、王の裁判所で裁決する(要は踏み倒される)ので、王様に貸すのは非常にリスクが高かったとか。そのため、個人である王様より、永続性のある議会に貸すほうが金利も低くでき、かつ大量の資金調達が可能になったという話。
 ちなみに議会が借金をする際には、新しい税が利払いの担保となっていたとのこと。そのため国債を発行するたびに新しい税ができ、窓税、ガラス税、四輪馬車税など、税制はかなり複雑怪奇なものになっていたとか。  国債の当初の考え方は、税の徴収の裏打ちがあっての国債であり、税収不足だから国債を出すのではないということのようです。

○イギリスの国債は永久債
 国債というと満期があるものと思いますが、イギリスの国債の主力であるコンソルは元本の償還をせず利子のみをずっと支払っていくものなのだそうです。感覚としては、配当が保障されている株式に近いのかもしれない。
 なんでこんなのが売れたのか?と思ったら、当時(18世紀ぐらい)には優良な投資先がなく、投資家も償還を望んでいなかったとか。 ただし、残高を減らさないと利払いがどんどん増えるのが問題だそうで、戦争のたびに増えた残高を終戦後に減らすという繰り返しだったようです。

○コンソルはコンソリデート(統合する)という意味。
 一時期はいろいろな部局で勝手に税を作り、勝手に借り、勝手に使っていた時期もあったとか。これを議会の統制がなくなるということで、国の財政の一本化を図ったとのこと。
 「特定の税収で特定の歳出をまかなうという部局ごとの基金により、財政の硬直化と不適切な会計処理が発生した。」
 というあたりは現在の日本にも当てはまろうかと思います。

○日銀が政府からの独立性を気にする理由   明治政府において、政府ではなく銀行が紙幣を発行することになった際の答弁
 「政府が自分で紙幣を発行するというと財政少し不如意なると動もすれば不換紙幣を出すということになりやすい。」
というあたりは財務省には耳のいたいところかも。

○日本の国債は大丈夫?
 日本の国債はすごい残高にもかかわらず、金利が低くなっていますが、実はポンド建など国際的な場に出るとイギリス国債などよりも金利が高いとか。つまり、リスクがあると思われているとのこと。
 序章の中で「外国人による保有が少ないから大丈夫」「貯蓄超過国だから大丈夫」という論に対して、「外国人による保有が少ないのは外国人から信用されていないから」「資本の移動が自由な中では大丈夫とはいえない」と否定的です。

○昔からある国際化
 現代は国際化が進んでいると言われていますが、第一次大戦前も現状と同様に国際化が進み、各国の経済の相互依存が深まっていました。そのため、戦争が起こればみんな大変なことになるのだから、大きな戦争は起こらないと楽観していたのだとか。実際には複雑な同盟関係、つまり相互依存が原因でヨーロッパ中が戦争に巻き込まれることとなったのですが。

○資本課税というアイデア
 第一次大戦後のフランスでは、国債の残高に対して1回限り高率の税をかけること(資本課税というらしい)で国債残高を減少させようというアイデアがあったようです。実際には行われなかったのですが、行われそうになったという情報だけで、資本が流出しハイパーインフレの寸前までいってしまったとか。 日本でも一部にはそのような議論があるようですが、こういう歴史を知っておくことも大事かと思います。

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