2009年3月12日木曜日

地方交付税と地方債:第三話

3つの町を息子たちに任せることとした猫の国の王、第二話の続きです。(前回はこちら

第三話 借金はだめよ。

猫吉「それから最後に、借金はくれぐれも慎むように。」
猫太郎「それはなぜですか。」
「借金は返さなければならないものじゃ。それは何から返すかというと年貢じゃ。つまり、今年のサービスのために、来年のサービスを減らすことになるのじゃ。」
「だったらプラスマイナス0のような気もするのですが。」
「いいや違う。猫の町でも移動があるから、借金をした年にいた猫は年貢を払わずにサービスを受けられるが、借金を返すときの猫はサービスなしで借金を返すだけになってしまう。世代ということで考えられば、子供はサービスがなく親の借金を返すだけになってしまうことになるからじゃ。」

(解説)

地方財政法第5条では、「地方公共団体の歳出は、地方債以外の歳入をもつて、その財源としなければならない。」と書いてあります。つまり借金をしないというのが原則です。
 それは上にも書いてある通り、主に世代間の公平のため(負担なしでサービスを受ける人と、サービスなしで負担だけする人が出てしまう。)です。
 それでは次の世代でも同じように借金をすれば、次の世代もサービスを受けられ、その借金を返す世代でもまた借金をすれば・・・と続けていけば理屈上は成り立つようにも思いますが、実際には借金には利子がつくので、どこかで必ず破綻します。

このようにいつかは破綻するものは「持続可能性がない」又は「サステナブルではない」といいます。
市や国の財政を評価していくうえでは「これをずっと続けていけるのか?」つまり「持続可能性があるか」という視点を持つことが重要です。

 とはいえ、実際は同じ法律の第5条で地方債(借金)をしてもよいことになっています。世代間の公平のためにも借金をしてもよい場合があるのです。それについては次回のお話とさせていただきます。

2009年3月11日水曜日

地方交付税と地方債 第二話

3つの町を息子たちに任せることとした猫の国の王、第一話の続きです。
第一話はこちら
第二話 不足分はいくら?
猫次郎「父上、ともかく、今年はいくらいただけるのでしょう。」
猫吉「そうじゃな。わしの見たところこうじゃ。」 と王様は一枚の紙を出しました。
「山辺の町 : 年貢60 必要費用100。不足分100-60×3/4=55
 川辺の町 : 年貢100 必要費用100。不足分100-100×3/4=25
 海辺の町 : 年貢160 必要費用100。不足分100-160×3/4<0 ゆえに0」
「という具合じゃな」
猫三郎「実際に60集まらないかもしれない。」
「60は去年の実績じゃ。今年これより低いようであれば来年反映する。ただし年貢の徴収漏れとかは自己責任じゃ。」
「災害とかそういうので、思わぬ出費があったらどうしましょう。」
「それは、その事情を考慮して わしが決める。」

「それからじゃ。」と猫吉がいうと、執事が分厚い本を持って恭しく入ってきました。
「町の運営については、マニュアルにまとめておいた。よく読んでそれに基づき執り行うのじゃぞ。」

(解説)
 地方交付税の考え方はおおよそ上の通りです。この物語では3人(匹?)のうち1人だけが不足分がないことになっていますが、今の日本では47都道府県中2のみ、市町村では約1781のうち179のみが不足分がないことになっています。
 この不足分がない市町村など「不交付団体」といっています。
 実は東京はこの不交付団体の占める割合が多くなっています。(30市町村のうち17市町:除く島嶼部)

 さて、猫次郎が質問した「年の途中で思わぬことがあった場合などのための交付税」が特別交付税といわれるものです。
 (説明はこちら http://www.town.takatori.nara.jp/soumu/zaiseijyoukyou/html/bottom/tihokohuzei.htm*1)
 先日ニュースで取り上げた「地域手当上乗せで交付税減額」で出た特別交付税がそうです。
 地方交付税の総額の6%がこの特別交付税に充てられることになっています。
 特別交付税も交付の基準が定められているのですが、「特別の事情が存することにより過大であると認める場合においては」減額できることとなっており、ある程度恣意性があるものと思われます。
 逆に合併した市には個別の配慮があるなど、地方をコントロールする道具としても使われているように思います。

 普通交付税も基準があるのですが、基準が毎年変わる+算定が複雑、でつまるところ、市の財政担当者としてはいくらもらえるかは予測が困難で、国任せという面があります。
 そこらへんを集約した言葉が「わしが決める」というところなのかなと思っています。

*1当初総務省のページとリンクしていましたが、リンク切れとなったので4月に高取町のHPへリンク換えしました。

2009年3月10日火曜日

地方交付税と地方債 第一話

これまで各市の白書を紹介したり、ニュースを紹介する中でよく出てくる地方交付税の話。
ブログの中でも、解説しなければと書いていたのですが、なかなか機会がありませんでした。

行政が出している白書のほとんどが、交付税と最近の改革による地方債について説明しています。
これそのものがいろいろな経緯から生じているものであり、とても一言で簡単に説明できるものではありません。
かといって長々と説明したのでは、退屈してしまいます。
ということで、長い説明でも物語にすれば読んでもらえるのでは?と考え、この企画を始めました。
 企画倒れになったらごめんなさい。

 第一話 息子たちに町を任せるのじゃ。

 ここは猫の国。一代で国を築いた王、猫吉の国です。
 ある日、猫吉は三人の息子、猫太郎、猫次郎、猫三郎を呼びました。

 猫吉「息子たちよ。明日から、お前たち三人にこの国の3つの町を治めてもらうことにする。猫太郎は海辺の町、猫次郎は川辺の町、猫三郎は山辺の町を治めてもらうこととする。」(これから猫吉はこの色の文字とします。)
 息子たちは顔を見合わせました。猫三郎が不満そうな表情を見せます。その表情を確認したかのように言いました。
 「もちろん、海辺の町が一番豊かなことは知っている。川辺の町や山辺の町が大変なこともな。そこでじゃ。それぞれの町を治めていくのに最低限必要なお金はわしが保障しよう。」
 「どこから出るのかは心配不要じゃ。今までとっていた年貢を全部お前たちにやるわけではない。わしにはこの国全体を治めていく役割がある。だから年貢の半分を息子たちに、残りはわしにこれまでどおりに納めてもらう。最低限必要なお金に足りない部分は、わしが受け取る年貢の中の一定割合をそのためにとっておくからそこから出そう。」

 猫次郎「父上。最低限必要なお金はどうやって決めるのですか。」(猫次郎はこの文字です以下同文)猫次郎が聞きます
 「それはだな、町の広さとか猫の数とかいろいろなものを考慮して、わしが決める。」
 猫三郎「最低限しか保障されないんじゃ。工夫のしようがないですよ。」
 猫太郎「最低限が必ず保障されるのでは、頑張る努力をしなくなるのではないでしょうか。」
 「まあまあ、そういうこともあろう。そこでだ、君たちの年貢のうちの3/4が、その最低限に必要なお金に足りないときは、その部分を保障しようじゃないか。だから、努力したからとって収入がふえないということはないぞ。それからその1/4は必要最低限以外のことにもまわすことができるというわけじゃ。」
 
(解説)
 地方交付税の目的は、それぞれの市町村の財政力の格差を解消することです。
 格差を解消するというと、豊かな方の市のお金をそうでないほうの市に回すというイメージがありますが、実際には国に入ってくる税収の一定割合を財源が不足する市に国から交付するという形としています。
 猫次郎の発言にもありましたが、それぞれの市で必要なお金とか、足りないお金はどう決めるのでしょうか。
 それは国が基準を作っているのです。(「普通交付税に関する省令」に定められています。)
 国の基準による歳入(標準税収入)が例えば100億円あるとすると、その75%の75億円が基準財政収入額となり、一方これまた国の基準による歳出(基準財政需要額)が100億円だとすると、その差額の25億円が国からもらえるという仕組みです。

 総務省による説明はこちらのページ
  http://www.soumu.go.jp/c-zaisei/gaiyo.html

註)今の法律では国と自治体は基本的には対等ということになっていますが、戦前には知事が国から派遣されていたり、戦後も市町村の仕事の4割は国の仕事の下請けだったりしたなど、歴史的に国が上、地方が下という時代が長く、行政・市民ともにその発想が染み付いているので、国を親猫である猫吉、市を子猫にたとえてみました。
 この例に限らず、あくまでわかりやすく例えているに過ぎないことをご承知おきください。


2009年3月9日月曜日

宮大生が県財政白書

2009年3月7日 読売新聞 より

宮崎大教育文化学部の学生が、県の財政白書を作成し、7日午後1時から宮崎市のカリーノ宮崎・コミュニティホールで発表会を開く。過去20年分の決算統計書を独自に分析していて、学生たちは『多くの人が財政状況に関心を持つきっかけになれば』と期待を込める。(毛利雅史)」

 財政学ゼミに所属する3年生6人が、2007年10月から課外活動で作業を始めたようです。
 県財政課に依頼して過去の資料を入手し、年度ごとの歳入、歳出などをカードに集計。一般市民にはなじみの薄い専門用語を解説しながら、財政力を示す数値などをグラフを使ってわかりやすく説明しているとのこと。

 指導したのは入谷貴夫教授(地方財政論)とのことです。

 記事にもありますが、県レベルの財政白書は珍しい。 国と市の中間でいろいろとまとめ方も難しかったと思います。
 内容はわかりませんが、大変興味ありますね。

西多摩その他財政資料

今日で西多摩シリーズは終了です。
 実は他の町は行政としての財政白書はWeb上にはありません。(たぶん発行していません。)
 
 日の出町では、日の出町の財政を学ぶ会が「住民の目線で見る日の出町の財政」を 2006年に発行しています。

 注目は瑞穂町。この町は決算書、予算書、事務報告書をすべてHP上に載せています。
  http://www.town.mizuho.tokyo.jp/gyousei/yosan2.html
 決算書・予算書には巻末の財産調書などの資料も載せています。拍手。
 事務報告書がそのまま載っているのも初めて見ました。

 これで財政白書の紹介の連載はひとまず終了です。
 今後は「財政白書を作りたい」「財政についてもっと知りたい」という場合に
  「どの市の資料が参考になるか?」 という視点でまとめてみたいと思います。

 ちょっと時間をいただきますが、気長に待っていただければと思います。

2009年3月8日日曜日

あきる野市財政白書

平成19年度の財政白書が平成20年10月に発行されています。
 http://www.city.akiruno.tokyo.jp/index.php?oid=42&dtype=1013&pid=189
 おそらく今回が初めてなのではと思われます。
 内容はスタンダード。むしろ内部向け?
 
 市民による財政白書も発行されたようですが、ネット上では詳細は不明でした。

 
 

2009年3月7日土曜日

羽村市財政白書

羽村市は平成13年度から財政白書を発行して今年で6回目。
 平成19年度が最新です。
 http://www.city.hamura.tokyo.jp/zaisei/hakusyo/19hakusyo.html

 構成はスタンダード、バランスシート関係が比較的充実。
 文字による説明はあまり噛み砕いていない(ある程度わかる人向け)だが、データは詳しい。
 例えば、個人の市民税の所得階層ごとの人数や税額などがあり興味深いです。
 羽村市の特徴は概念図などの作り方がうまく、わかりやすいこと。
 財政白書を作る立場としても参考になるものがあります。